童謡に関する意識調査

磯江尚樹 , LEM音楽院


 2002年の9月下旬に18人の未成年の生徒達に対して、「童謡に関する意識調査」を行いました。「童謡」と言っても全般的なことではなく、「赤とんぼ」と「七つの子」という二つの曲に関してです。なぜこの様な調査をしようと思い立ったかというと、レッスンでソルフェージュの問題をやっている時に、しばしば日本人なら当たり前に知っていると思われるような曲を、子供達が「知らない」と答えることがあったからです。それで、どの程度「知らない」のかを調査してみようと思いました。

 

質問1:「赤とんぼ」という歌を歌ってください。

 結果は以下の通りです。

 

・1番を歌えた 2人

・1番を途中まで歌えた 1人

・全く歌えなかった 9人

・歌そのものを知らなかった 6人

 

 少しでも歌うことが出来たのは中学3年生と高校1年生の3人だけでした。歌は聴いたことがあるけど、出てこなかった人が9人、歌そのものを知らないと答えた人が6人いました。でも、ソルフェージュで必ず赤とんぼはやっています。だから、歌を全く知らないと答えた生徒が6人もいたのはちょっとショックでした。

 

質問2:「か〜ら〜す〜、なぜなくの〜♪」の続きを歌ってください。

 結果は以下の通りです。

 

・1番を歌えた 1人

・1番の途中まで歌えた 1人

・「カラスの勝手でしょ〜♪」 3人

・メロディは歌えるが歌詞が出てこなかった 10人

・全く歌えなかった 3人

 

 「赤とんぼ」に比べると、こちらはまだメロディだけでも歌える生徒が多くて、少しホッとしました。歌えなかったのはいずれも小学校低学年の生徒です。それよりも、「カラスの勝手でしょ〜♪」が3人もいたのは驚きです。なぜなら、私の世代だと「8時だよ、全員集合!」を見ていたのでほとんどの人が知っていると思いますが、なぜ今の子供達が知っているのかと不思議に思いました。
 「どこで覚えたの?」と聞くと、「バカ殿でやってた」と答えが返ってきました。それで納得しました。志村さんはまだこのネタをやっていたんですね。
(^_^;)

 それにしても、「かわいいななつのこがあるからよ」まで歌えた生徒が1人しかいないのは寂しい限りです。この生徒は「赤とんぼ」も途中まで歌うことが出来ました。なぜこの生徒は歌えるのでしょうか。そもそも、他の生徒達はなぜ歌えないのでしょうか。

 

メディアのせい?

 よく、「昔のような子供番組が減った」という話を聞きます。では、子供達が「赤とんぼ」や「七つの子」を歌えないのはメディアのせいでしょうか?
 いいえ。それは違います。なぜなら、今回の調査で「『おかあさんといっしょ』という番組を見ていましたか?」という質問もしました。全ての生徒が『よく見て』いたか、『時々見て』いました。そして、「よく見ていた」生徒と「時々見ていた」生徒の差異はありませんでした。「おかさんといっしょ」はよく童謡を取り上げています。しかし、それが子供達へ与えている影響はあまりないように思います。つまり、よっぽどのヒット曲で繰り返し放映されない限り、子供達がテレビで歌を覚えているわけではないのです。

 

学校のせい?

 「学校でそう言う曲を教えないからだ」という意見もあります。それは確かに否定できません。調査の最後の項目で「今好きな曲をあげてください」という質問に対して、12人の生徒が自分の好きな曲をあげてくれました。その曲はアイドルの曲だったり、今のヒット曲であったり、ドラマやアニメの主題歌であったりします。でも中には現在学校の合唱コンクールの練習で歌っている曲や、レッスンでやっている曲をあげた子もいます。この例からもわかるように、学校やレッスンで教わると言うことが子供達に影響を与えることは間違いありません。それに、ピアノのレッスンでは歌詞のついていない曲を扱うことが圧倒的に多いので仕方ないとしても、学校で習っている曲をあげた生徒が1人しかいなかったと言うのは、これはこれで別の問題があるように思います。

 しかし一番問題なのは、「好きな歌がない」と答えたが生徒が6人もいたことです。少なくとも、音楽が好きだからピアノを習いに来ているはずなのに、好きな歌がないというのはどういうことなのでしょうか。6人の顔触れを見ても、日頃から意欲的に練習してくる生徒も含まれています。つまり、「ピアノをやっているから歌が好きだ」という方程式は必ずしも成り立たないことになります。では、他に原因があるでしょうか。

 

家庭のせい?

 あなたは子供の時に親から歌を教えてもらった記憶があるでしょうか?私は子守歌など色々と教えてもらった記憶があります。今の子供達はどうでしょうか。

 5人の生徒が何を教わったか覚えていました。そして、他の5人は教わったかどうか覚えていないと答えました。残りの8人は教わったことはないと断言しました。この結果から見て、親から歌を教わるという触れ合いが少ないことは確かなようです。そして、先ほどの「赤とんぼ」と「七つの子」を歌えた生徒は親から教わった歌を覚えていた生徒の1人でした。しかし、その他の4人は「赤とんぼ」や「七つの子」を満足に歌えない生徒達です。このことから考えても、家庭だけに責任があるわけではないのは明白です。

 

大人が教えないから

 では、どうして今の子供達は「赤とんぼ」や「七つの子」を歌えないのでしょうか。その原因は簡単であることに気づきました。それは、“大人が教えないから”です。“誰か”のせいではなく、子供達に直接関わる大人が教えないからです。つまり、私たち1人1人に責任があるのです。では、子供達にそのような歌を教える必要があるのでしょうか。

 歌を教えると言うことはただ単に趣味を教えるだけのことではありません。私たちの親や、さらにその親たちが親しんできたものを教えると言うことは“価値観”を伝えていくことになります。

 例えば、「七つの子」を考えてみましょう。「七つの子」には「七羽の子」説と「七歳の子」説とがあります。私は後者をとります。なぜなら、最後の歌詞が「まぁるい目をしたいい子だよ」となっているからです。「七羽の子」であれば、「子達だよ」となるはずです。それに、「七歳」には特別な意味があります。
 昔は今のように医学や公衆衛生が発達していませんでした。だから、多くの子供達が病気で死んでいったようです。それで、子供が無事に成長するように、生まれてから2年置きに昔の親は神社で祈願をしました。つまり、「七五三」です。そうやって七歳まで育てば、後は体力が付いて無事に成長してくれるだろうと昔の人は考えたのではないでしょうか。そして、七歳まで一喜一憂しながら大事に育てた子供は、親にとってそれはもうかけがえのない存在に違いありません。今の子供が小学校に入学する時の喜びとは比べ者にならないかも知れないのです。いずれにせよ「七つの子」には、そうした親の深い愛情が込められています。この歌を子供達に教えると言うことは、そのような「親は子供を深く愛している」という価値観を教えることにつながっていくのではないでしょうか。
 小さい時は、そんなことはわからないかも知れません。しかし、大人になってから教わった歌をふと口ずさんだ時、その歌の意味を理解できるようになります。そうやって、未来の大人達へ価値観を継承していくことは、今の大人達の責任です。特に、子供達に直接関わる両親と、教師の責任は重大です。我々教師はただ知識や技術を教えるだけでなくその曲の持つ意味や楽しさを教えることによって、そして、ご両親は物やお金を与えるだけでなく価値観を伝えることによって、未来の大人達が豊かな人生を切り開いていけるようにしなければなりません。そしてその役割は、決してメディアが代わりを果たせるようなものではないのです。
 確かに、好き嫌いや、興味の有る無しという問題もあるかもしれません。しかし、子供達に興味が有ろうと無かろうと、自分自身が「このぐらいは知っていてほしい」とか、「これは常識だろう」と思うことは、やはり伝えていくべきだと思います。なぜなら、誰かが伝えなければ、子供達は一生そのことを知らずに終わるかもしれないからです。「今の子供達はこんなことも知らないのか。」と思うことがあるなら、それをしっかりと伝えることを考えるべきでしょう。そうやって伝えられたことが、いつか子供達の人生において、大事な意味を帯びてくるかもしれないのです。

 

 今回の調査は私にとっては大きな意味がありました。これからのレッスンの方向付けに、大いに参考にしていきたいと思います。

 


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最終修正日: 02.10.20