ピアノの先祖2:ダルシマー
さて、前のページではピアノの形の先祖であるチェンバロを紹介しましたが、このページでははピアノの音の先祖に当たるダルシマーを紹介します。
音の先祖と言っても、実際の音はピアノとはずいぶん異なります。でも、音の出し方はピアノと同じように、弦をたたいて音を出します。ピアノは鍵盤を押すとハンマーが動いて弦をたたく仕組みになっていますが、ダルシマーには写真の通り鍵盤がついていません。ですから、演奏者は弦を専用のスティックでたたいて音を出すのです。見た目はピアノと違いますが、音の出し方は同じなので、ダルシマーはピアノの音の先祖と言うことができます。
このダルシマーは中近東が発祥の地とされています。ですから、インド、イラン、アフガニスタンあたりで生まれたものでしょう。
12世紀頃にスペインおよび西ヨーロッパにもたらされ、その後ジプシーによってトルコやハンガリーにまで広められたと考えられています。ジプシーはインド北西部がその源の地であると言われ、ルーマニアやハンガリーを中心にして数家族から十数家族にもなる集団を形成して各地を転々とする生活をしていました。彼らは歌や踊りを好み、各地の文化に大きな影響を与えています。たとえば、フラメンコなどがそうです。
そして、その後17世紀前半に中国に伝わり、揚琴(ヤンチン)という楽器になりました。揚琴は私も演奏したことがあります。この写真のように箱形ではありませんでしたが、同じように横にいくつもの弦が張られていて、それを竹でできた専用のスティックでたたいて音を出しました。どんな音がするかというと、ピアノやギターの弦をペンで軽くたたいているような音です。実際の音はそれよりもっと響くいい音ですけどね。ただ、演奏は慣れるまで結構難しいです。たくさんの弦が張られているので、どれが何の音か実際にたたいて音が出るまでわからないのです。ちょっと順番を間違えるとめちゃくちゃになってしまいます。ピアノの方がずっと弾きやすいと思いました。
さて、この揚琴は中国からモンゴル、朝鮮へと伝わっていき、江戸時代の末期に日本にも伝わりました。この江戸時代の末期というのをおぼえていて下さい。実はその時代にもう一つおもしろい逸話があるのです。それについては後のページでお話しします。
このようにして、ダルシマーは世界に広まっていき、やがてピアノという楽器に変化していくのですが、ダルシマー自体は現在でも多くの演奏家に愛されています。チェンバロと同じように、その素朴な音色は現代の人々の心にも優しく響いているのです。
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