ペダル―表現力を広げるスイッチ
グランド・ピアノにもアップライト・ピアノにも、そして電子ピアノにも必ず足下の位置にペダルがあります。まだピアノを習い始めたばかりの人は、これが何のためについているのかよくわからないかもしれません。でも、このペダルはピアノの演奏には欠かせない、とても大事な役割があるのです。
さて、このペダルはグランド・ピアノやアップライト・ピアノには、たいてい3本ついています。ちょっと古いピアノだと、2本しかついていない場合もあります。また、電子ピアノの場合は1本しかペダルがついていないこともあります。では、それぞれのペダルにはどんな役割があるのでしょうか。
◎右側のペダル:ダンパーペダル
ダンパーとはピアノの弦の振動を止める仕組みのことです。ピアノの鍵盤を押すと音が鳴って、離すと音が止まります。これは、鍵盤を押すときにその音のダンパーが弦から離れて、鍵盤を離すとダンパーが弦を押さえて音の響きを止める仕組みになっています。
ダンパーペダルを踏むとすべてのダンパーが弦から離れます。ですから、ダンパーペダルを踏んでいる間は、一度鳴らした音は、鍵盤を離しても鳴り続けています。そして、ダンパーペダルを離すと、すべてのダンパーが弦を押さえるので、鳴っていた音が一斉に止まります。
電子ピアノなどは弦もダンパーもついていないので、右側のペダルのことを“サスティンペダル”と呼びます。“サスティン”とは「(音を)のばす」と言う意味です。そして、機種によってはこのサスティンペダルしかついていない電子ピアノもあります。
さて、このダンパーペダルは音をうんと響かせたいときや、音をつなげたいときに使います。このペダルはピアノが上達するに従って頻繁に使うようになります。ダンパーペダルを上手に使えるかどうかは、演奏を上手に聴かせるための重要な鍵となります。
◎真ん中のペダル:ソステヌートペダル(グランド)、ミュートペダル(アップライト)
真ん中のペダルはグランド・ピアノとアップライト・ピアノでは機能が違います。また、これらのペダルがついていないピアノもあります。
●グランド・ピアノ→ソステヌートペダル
ソステヌート(sostenuto)とは「音を保持する」と言う意味です。このペダルを踏むと、その時弾いていた音のダンパーだけが弦から離れたままになります。ですからその音を響かせたまま、他の音を普通に弾くことができます。ペダルを離すとダンパーが元に戻るので音は止まります。
このペダルはかなり特殊な使い方をするので、通常はほとんど使われることがありません。しかし、演奏会や特に大学のピアノの試験などで、緊張のあまり間違えてダンパーペダルではなく、ソステヌートペダルを一生懸命踏んでいたという話があります。ピアノを人前で弾く機会のある方はよく注意しましょう。
●アップライト・ピアノ→ミュート(消音)ペダル
これは演奏には直接関係ないペダルです。このペダルを踏むとペダルを横に引っかけられるようになっています。こうすることによって、ピアノの弦とそれをたたくハンマーとの間にフェルトの布がはさまるようになっていて、それによって、ピアノの音が極端に小さくなります。夜遅く練習するときなど、他人に迷惑をかけないようにするために使います。
◎左側のペダル:シフティングペダル(グランド)、ソフトペダル、弱音ペダル
このペダルはうんと弱い音を出したいときに主に使います。また、楽譜に“con
sordino”(コン・ソルディーノ)や“una
corda”(ウナ・コルダ)などと書かれているときに使います。ただ、グランド・ピアノとアップライト・ピアノでは仕組みが全く違います。
グランド・ピアノの左側のペダルを踏むと鍵盤が右側へ少しずれます。すると中のハンマーも一緒にずれます。ピアノの弦は一つの音に対して2本〜3本の弦が張られています。ハンマーをずらすことによって、そのうちの1本にハンマーがあたらないようにするのです。そうすることによって全体的に音が小さくなります。しかし、同時に音質も変わってしまうので注意が必要です。このように、鍵盤やハンマーがずれる(シフトする)事から、グランド・ピアノの場合はシフティング・ペダルとも呼ばれています。
アップライト・ピアノの場合はソフトペダルを踏むと中のハンマーが少しだけ弦に近づきます。そうすることによって小さい音を出しやすくします。アップ・ライトピアノのソフトペダルは、グランド・ピアノのシフティングペダルよりもあまり音の変化は感じられません。
このように、ペダルには色々な役割があります。これを上手に使うことによってピアノの表現力を飛躍的に広げていくことができるのです。
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