気持ちを込めた通し練習 |
10.気持ちを込めた通し練習F1レーサーは時速300km/hに迫るようなものすごい速さでレースをします。でも、ただ速く車を走らせているわけではありません。どこをどのぐらいのスピードで走るか、それぞれのカーブにどういう角度で入っていくかと言うことを綿密に計算しているのです。そしてそのためにはコースを実際に自分の足で歩いて細かい計画をたてなければならないそうです。ピアノでも同じようなことがいえます。 ピアノの曲もレーシングコースと同じように、速くしたり遅くしたり、強くしたり弱くしたりなど、変化に富んだ様々なポイントがあります。全体の中で、それぞれのポイントをどのように演奏していくか具体的な計画が必要です。たとえば、クレッシェンドをどのぐらいの勢いで強くしていくか、リタルダンドをどの程度遅くしていくか、ピアノとメゾピアノをどう区別するか、個々のフレーズをどのように歌っていくかなどと言うようなことです。ちょうどレーサーがコース上を歩きながら本番のレースでどのように攻めていくかを考えるように、ピアニストも楽譜を見ながらそれぞれのポイントをどんな風に弾くか、綿密な計画を立てる必要があります。そして、そのような計画を立てるときに大切なのは“どのような気持ちを表現するか”と言うことです。言い換えると、曲想を考えると言うことです。 コンピューターが演奏している音楽は、一部のダンス・ミュージックをのぞき、たいがい味気なくつまらないものです。なぜでしょうか。それは、コンピューターには気持ちがないからです。音楽には色々な気持ちが詰まっています。悲しい気持ち、楽しい気持ち、恋しい気持ち、寂しい気持ち、美しい風景を見た感動、様々な物語、等々、そうしたたくさんの気持が表現されています。演奏をする人はそうした色々な気持ちを感じ取って、それに自分の気持ちを加えて音に表していくのです。何も考えずにただ弾いても、それは指の練習にしかすぎません。それでは何の気持ちも伝わらないのです。ピアノを演奏する人にとって、指だけではなく、指と一緒に心を動かす練習をすることもとても大切なのです。 指を動かす練習を一生懸命するのなら、同じように心を動かす練習もしなければなりません。ですから、通し練習をするときはいつも気持ちを込めて演奏するように心がけましょう。間違うところを弾けるようにする練習ばかりでなく、最初から最後まで集中して気持ちを込めた演奏をする練習もしましょう。そのような練習をしていれば、だんだんと曲の雰囲気がつかめるようになります。そうなれば、今度は自分の気持ちを演奏に反映できるようになるのです。自分が表現したい気持ちを表すために身についた技術、それこそが真のテクニックです。 |
目次 | 楽譜を正しく読む | 指番号を守る | 正しい姿勢と手の形 | 腕や手首のよけいな力を抜く | 曲想を考える | 定期的・計画的な練習 | エチュードを日課とする | メトロノームとなかよしになる | 必要不可欠な部分練習 | 気持ちを込めた通し練習 | お母さんは名コーチ | 素直な心と自分でやろうとする気持ち | 聴く耳を育てる | ホーム・コンサートのススメ | 絶対にあきらめない | 発表会で成功する練習の仕方