5.曲想を考える
音楽には色々な曲があります。楽しい曲、悲しい曲、元気な曲、静かな曲など、人の気持ちを表した曲や、どこかの風景や何かの出来事を表した曲があります。「曲想」とはその曲を聴いたときに受ける印象、つまり、その曲が表している気持ちや雰囲気のことです。
曲想をまったく考えていない演奏はとても不自然な感じになります。たとえば、皆さんが楽しい話をするときに、ブスッとした顔で話をするなら、その話を聞いている人はどう思うでしょうか。「何を怒っているんだろう」と不安になるのではないでしょうか。笑いながら楽しそうに話さなければ、その話の楽しさは決して相手には伝わりません。それと同じように、音楽を演奏する場合にも、気持ちを込めて演奏する必要があります。楽しい曲は楽しく、悲しい曲は悲しく、静かな曲は静かに、元気な曲は元気良く演奏しなければなりません。ではどのようにすれば、気持ちを込めた演奏ができるでしょうか。
曲の雰囲気を考える
みなさんが弾いている曲にはたいてい題名がついています。まず、その題名から曲の雰囲気を考えることができます。たとえば、「しずかなよる」と言う曲なら、それは間違いなく静かな曲でしょうし、「かけっこ」という曲なら、元気な曲であることはすぐわかります。題名を見て、その様子をよく思い起こしましょう。それでだいたいの雰囲気はわかるはずです。
次に、題名からはあまり想像のつかない曲があります。たとえば、「メヌエット」とか「ソナチネ」と言うような曲です。こういう場合は、練習をしながら考えます。練習を続けて、ある程度弾けるようになったなら、楽譜を見ながら頭の中で演奏してみます。自分の頭の中でピアノを鳴らしてみるのです。そして、どの部分をどういう風に弾けば気持ちよく聞けるかを考えます。ある程度考えがまとまったら、実際にピアノを弾いて確かめてみます。プロが演奏しているCDなどを持っているなら、それを聴いて参考にするのも良いでしょう。
とにかく、今自分が弾こうとしている曲が、静かな曲なのか、元気な曲なのか、楽しい曲なのか、悲しい曲なのかをよく考えてください。曲の速さや強さが楽譜に書かれているなら、それに従って、曲の雰囲気も考えましょう。また曲の全体だけでなく、それぞれのフレーズ(メロディの区切りよい部分から部分まで)についてもそれが何を表しているのか、またどういう雰囲気があるかを考えましょう。低学年以下の生徒さんの場合は、お母さんやお父さんが一緒に考えてあげてください。曲を黙想することも大切な練習の一つです。
曲想を演奏に反映させる
自分で考えた曲想をどのように演奏に表すことができるでしょうか。それには、次の三つの要素が関係します。
1.速 さ 2.強 さ 3.音 色
曲を速く弾くか遅く弾くかで、受ける印象はかなり違います。曲に適した速さを考えましょう。また、速さに関する指示が楽譜に書いてあるときはそれに従いましょう。
次に強さですが、ふつう元気な曲は強く弾き、静かな曲は弱く弾きます。ただし、楽しい曲や悲しい曲は、その楽しさや悲しさの度合いによって強さが変わります。たとえば、ちょっぴり悲しいときは弱く弾きますが、うんと悲しいときは強く弾く場合もあります。たいていの場合、楽譜にどのぐらいの強さで弾くのかが書いてあります。でも、度が過ぎないように気を付けましょう。この速さと強さが自由自在に使いこなせるようになれば、人を感動させる生き生きとした演奏ができるようになります。
最後に音色ですが、ピアノは硬い音と柔らかい音を出すことができます。この硬い音と柔らかい音を曲想に合わせてどのように使い分けるかは、演奏する人の感情や感覚で決めなければなりません。その人の個性が一番表れるところです。しかし、硬い音と柔らかい音を弾き分けるのはかなり高等な技術です。硬い音は力を込めて弾けばすぐ出ますが、柔らかい音は腕や手首の力を完全に抜くことができなければ出すことはできません。そして、その腕や手首の力を抜くことがピアノでは一番難しいのです。でも、力が抜けたからと言ってすぐできるようになるわけではありません。自分でこういう硬い音を出したいとか、こういう柔らかい音を出したいとか思わなければ、決して音色を使い分けることはできません。つまり、具体的な音のイメージが必要なのです。そのためには、プロが弾く演奏を何度も聴いて、ピアノから出る色々な音を聞き分けられるようにならなければなりません。
音楽の楽しさは、自分が考えたことや感じたことを、音を使って他の人に伝えるところにあります。みなさんが普段何気なく聴いたり弾いたりしている曲にも、その曲を作った人や演奏している人の色々な気持ちが込められているのです。そういう気持ちをくみとることができれば音楽はいっそう楽しい物になります。そして、自分の気持ちを音楽で表すことこそ、音楽を学んだ人だけが味わえるおもしろさなのです。
ただ弾くことだけに一生懸命にならずに、その曲から感じた色々な気持ちを演奏に表せるように考えてみてください。「生きた音楽」を演奏できるようにがんばりましょう。
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